舞鶴・人・文化

舞鶴市は、古くは田辺藩として江戸時代を生き抜き、さらに戦国時代に遡れば田辺城にまつわる話に細川幽斎がその歴史に名を刻んでいます。ひとつひとつの話にはそれぞれ歴史の重みを感じるものがありますが、そのいずれもこの地域一帯が日本史の中に名を残し、その原点である血の流れを再認識させうるものと相通ずる文化の香がそこはかとなく認識できるものであります。

舞鶴の近代においても、その文化を血肉としてこなした祖先の命脈は受け継がれていことをしかと感じる、人の心意気とその故郷に対する愛情を再発見することが出来ます。

IMG_1324IMG_1310故有本国蔵翁は、舞鶴市出身の実業家であります。実業家として成功し、成した財をもって舞鶴市の青少年の教育と社会事業のため、たびたび多大な寄付をされておりました。それはある時は“○○のためにと”現金での寄付であったり、形のあるものであったりといろいろですが、故郷への深い関心と愛情がその心意気の表れでありました。ある時などはそのための費用を捻出するために、長年に渡って蒐集されていた愛用の茶道具や書画を売却したりもされたことがあったようです。

IMG_1299 舞鶴市役所の西支所の二階には、こういった有本翁のなされた数々の功績を記念し、記憶を確かなものにして伝えるための記念館があります。そしてここに、この有本翁と舞鶴市とのかかわりを記したプレートをはじめ、威光をしのぶ数々が展示されています。ここにはいつでもだれでも訪れることが出来るのですが、たいていは閑散としています。残念なことです。

この西支所はかって有本翁が当時の市長川北氏の懇請により資金捻出し昭和12年に寄贈された舞鶴町公会堂を取り壊し建て直したものです。かつての公会堂は昭和初期の高層建築の中でも素晴らしいもので、竣工後は文化の殿堂としてあるいは行政の中心施設として活用されてきましたが、昭和57年、老朽化により建て替えのため、取り壊されました。

IMG_1303IMG_1305IMG_1308 この建物は直線を活かしながら軽い流れの寄棟の屋根で全体を形づけた堂々たるもので、文化財としての価値も十分に備えたものであったことが窺えます。

そしてこの建物の隣に、小さな古い建物がひっそりとして佇んでいます。

IMG_1333IMG_1329IMG_1336 これは大正13年に建てられた舞鶴税務署の庁舎が宮津税務署への移管に伴う廃庁となり空き家となっていたものを、その敷地とともに有本翁が払い下げを受けて舞鶴町立図書館として舞鶴市に寄贈したものです。後に舞鶴西商工会館として昭和43年から平成17年2月まで使われるなど転活用を繰り返してきましたが、今この建物も取り壊しの危機にあります。

この建物の本屋は木造2階建て。外壁はタイル張りで腰回りは洗い出し。屋根は平屋根のようにも見えますが寄棟造りの桟瓦葺きです。小屋組みは代表的な洋小屋であるキングポストが採用されています。1階は玄関ホールと左右の小部屋、カウンターで仕切られた執務室からなっています。左の小部屋は階段室。執務室は棟通りの中央列に3本の鋳鉄柱をたて、木の床梁を支える構造になっています。このような構造手法を持つものには明治39年に建築された日本写真印刷本館があります。各室の扉回りや階段手すりの親柱に見られる直線的、幾何学的な繰り型にはゼツェシオンやグラスゴー派の影響がみられます。倉庫は煉瓦造り2階建てです。(以上、京都工芸繊維大学大学院の日向進教授による鑑定による)

転用後の改造による建物内部の変化はありますが、この建物と同じ様式の近代建築は岩国税務署、旧東金税務署(国登録文化財)、旧部上八幡税務署などがあります。

これらは全国的にも希少な税務署建築遺構であり19世紀末の建築思潮を投影する建築が舞鶴に現存することの意義は充分に高いと評価できるのものです。舞鶴旧税務署の設計者などは不詳でありますが、平面、外観をほぼ当初に復元することは可能です。

温故知新。来し方の歴史の重みを噛みしめ知ることは、行く末の未来にとって大きな展望と希望ある方向が見えてくるはずです。この城下町の面影を残す町並みの中に近代化遺産である歴史の貴重な証人があることは、どれほどの札束を積んで得られるものよりも大きな、重みのあるものであるかと思われます。

幽斎殿も申されました。≪いにしえも今も変わらぬ世の中に 心の種を残す言の葉≫ この旧税務署の建物は“言の葉”ではありませんが、それを町立図書館として町に寄贈された有本翁の、舞鶴の町を愛し未来に寄与する人を育てる一助となりたいという心の種でもあります。

舞鶴の宝とすべき遺構の数々を、残す努力をしてこそ幽斎殿から引き継がれてきた舞鶴市民の心意気ではないかと思うのです。

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舞鶴・人・文化 への4件のフィードバック

  1. 伊庭節子 のコメント:

    歴史はその土地の人が語り伝えるものですね。有本翁の郷土に対する深く熱い思いを語り伝えることが私たちの責務だと思います。観光ガイドボランティアけやきの会としても、有本翁が残されたもの(形になったものも思いも)について広く伝えたいと思います。

  2. 土本章裕 のコメント:

    私も同感です。
    勝手にすいませんがfacebookにリンクを上げさせていただきました。

    • サービス友愛 のコメント:

      コメントありがとうございます。
      “本当に大切なものは見えないんだよね…”
      今、何が大切なものなのかをあえて考えてもらいたいと、提案しました。

      どんどん拡散してください。

  3. 松井功 のコメント:

    日向先生と共に調査に入った時の事が思い出されます。

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